じゃんけんに勝ったほうが挿れる。そんなわかりやすい提案をしてきたのはオロルンだった。負ける気など毛頭ないだろうに、まるで譲歩したような口ぶりで言ってのけたのだ。俺は渋々それを受け入れ、他にいくつかの条件を提示した。
カクークの目には入らないような場所ですること。始める前には必ずお互い風呂に入ること。万が一の事態に備えて、衣類は必ず汚れないようにしておくこと。
今までそれで特に問題は起こらなかった。大抵の場合カクークに診療所で留守番をしてもらい、俺がオロルンの家に行く。風呂は各々済ませているか、二人で温泉にでも行けばよかったのだ。
だからこそ、今置かれたこの状況が、居た堪れなくてたまらない。
ホテル・ドゥボールの客室の風呂は、二人で入るには少々――いや、おそらく他の宿泊施設に比べれば広いのだろうが、流泉の衆の温泉に慣れた俺達にとっては手狭だった。先に入って使い方を教えてくれ、などというもっともらしい理由で先手を譲られ、そして俺は今こうしてオロルンが上がるのを待っている。
きれいに整えられたベッドの上で、下着一枚の姿で。
(これは……流石にどうなんだ?)
体を重ねるようになってから、あいつがじゃんけんに負けたことは一度もない。そもそもじゃんけんに限らず勝負事において、俺がオロルンに勝てた試しがないのだ。勝利条件を変えたりこじつけたり、なんとしてでも勝とうとするのがオロルンだった。
今日も俺は当然抱かれるつもりで、尻の中まで洗浄している。
この状態で、おそらく腰にタオル一枚引っ掛けて出てくるオロルンとまずやることが勝敗の見えたじゃんけんなのは、あまりにも滑稽がすぎる。今の今まで本当に気づいていなかった訳では無いが、改めるのなら今なのだろう。
負けたから仕方がない、という逃げ道は、きっともう必要ないのだ。
*
「なあオロルン、もうやめないか」
浴室の扉が開いた音を聞いて、俺はオロルンに言った。
足元を見たまま言って、顔を上げて、それから俺は少しだけ後悔した。タオルは腰になく、髪を拭うのに使われていた。
「……しないのか?」
一瞬きょとんとした顔をして、オロルンは小首を傾げる。まるで「そんなに準備万端なのにか?」と言わんばかりの態度だ。
「いや、そっちじゃなくて……じゃんけん、を……」
言いながら、居心地が悪くなって目を逸らす。もしかしなくてもとんでもなく恥ずかしい話をしている気がした。
「つまり君は、僕に無条件で抱かれてくれる、と」
視界が陰り、ベッドのスプリングが小さく鳴った。毛足の長い絨毯が敷かれているせいで、足音はしなかった。
「イファ」
肩に置かれた手のひらと呼び声に促されて、そろそろと視線を上げる。
鮮やかな二色と目があって、なにか言ったほうが良いのかと開きかけた唇にオロルンの指が触れる。しばらく黙っていてくれという意思表示なのだろう。
「僕は、イファがそうしたいのであれば、たまには逆でもいいと思ってたんだ」
俺が口を噤んだのを確認して、オロルンは静かに話し始めた。
「最初の頃は苦しそうだったし、吐かないように食事内容に気をつけてたことも知ってる」
オロルンの指先がゆっくりと、顎を、喉を、胸元を、正中線に沿って降りていく。
「何度目かのとき、君が」
鳩尾と臍を越え、その下へ。
湯冷めて少し冷えた肌に、温かい手のひらが触れる。
「オロルン、待っ……」
ぞわりとしたものが背筋を走りる。俺が静止するよりも先に、下腹部に軽い圧力がかかった。
「ここで、なんとも言えない反応をしただろう?」
強くはない力で、それでも少しの遠慮もなく掌底を押し込まれて息が上がる。
反射的に逃れようとした体を抑え込まれ、それでも目を逸らせない。
「あの日から、僕は、君がそう言うのを待ってたんだ」